ものもうす

去年の春、大阪のあるところである園芸植物についての講座がありました。
講師はその道の第一人者といわれる方でした。

スライドを拝見しながらお話を聞くという講座だったのですが、スライドの中にトキワイカリソウの画像がありました。
そこで講師は少し脱線されて、「トキワイカリソウはなぜ常緑なのでしょうか」という問いかけをされました。

私は最前列にいましたのでちょっと小声で、「冬あたたかい雪の下にあるから」と言ったのですが、それを聞き取られた講師は首をかしげ、だいたい以下の様な意味合いのことをおっしゃいました。
「他の地域のイカリソウはみな冬に葉が枯れるのに雪国に生育するトキワイカリソウが常緑なのは、少ない日照条件を最大限に生かすため環境に適応したからです。」

私は「それは違う」と思いましたし、それを論拠をあげて説明できましたが、その場はイカリソウの葉についての講座ではないのですし、講師を私が論破してしまったら講座がめちゃめちゃになってしまいますから黙りました。

しかし、そのことを実はずっと根に持っていて(ウソ)いや、自分のためにちゃんと書いておいたほうがいいかなと思いましたので、ずいぶん時間が経ちましたがここに書いておこうと思います。



イカリソウの原種はだいたい50種くらいで、日本に4(あるいは5?6?7?・・・分類にも諸説あります)種あり、北アフリカやヨーロッパにも2種ずつ分布がありますが、ほとんどの原種は中国の山地に分布しています。
イカリソウ属が最初にどこで発生したのかは断言してはいけないと思いますが、一番たくさん原種の存在するところが生まれ故郷なのではないかと推測するのはそう間違っていないでしょう。
おそらく、中国の山地から西へ行くもの、東へ行くものが出て、極東に来たのが日本のイカリソウ群、西へ行ったのがヨーロッパやアフリカのイカリソウではないかと思います。

そして、日本に分布するイカリソウ・キバナイカリソウ・バイカイカリソウ、ヨーロッパのEpimedium alpinum以外はみな常緑葉です。
日本のイカリソウの種類から見ると、トキワイカリソウだけが常緑で変わっているように見えますが、世界のイカリソウから見ると夏緑(落葉)のイカリソウの方がちょっと変り種ということになります。



そもそも、進化の道筋をたどると陸生植物はみな海からあがってきました。植物が生きるのに何より大事なことは光と熱と水で、だから最初に植物が陸地に上がってきたのは光が強く熱量が大きく水がふんだんにあった熱帯雨林であったというのは疑う余地がありません。今でも熱帯雨林に世界中の植物の2/3の種(species)が集中しているのがその証拠です。
熱帯の植物はみな常緑です。一年中光合成ができる場所なら葉を落とす必要がないからです。

熱帯から温帯へ植物が進出していくうちに、植物の葉は厚くなりました。熱帯よりはかなり低くなる冬の気温から葉を守るためです。
さらに冬の気温が低くなる地域に進出するために、植物は冬に落葉することを身につけます。一年中光合成をしていたいのは山々ですが命と引き換えにはできません。温度も水分もなく光も弱い冬は休業して条件がそろったところで操業再開というわけです。

動物でいえばたとえばイルカやアシカなどの海獣は、いったん陸に上がった脊椎動物がまた海に回帰したということなので、植物にも、いったん落葉性を獲得したものが進化して常緑性をもった、ということがあるのかどうか、わたしにはよくわからないのですが、ただ、普通に素直に考えると、湿潤な気候の中国の山地から東の国に渡ってきたイカリソウが太平洋岸の気候に直面して、ああ寒いこんなのムリ!と夏緑型に変わっていったというのが自然な流れの様な気がします。



ところで、それではなぜ、トキワイカリソウは常緑なのか、というと、それは私が上で書いたように、そこが雪国で冬にあたたかく湿潤だから、ではないでしょうか。
雪の下は氷点下何度という温度にはなりません。また水分はいつも保たれています。常緑葉が生きていける条件がそろっています。確かに日光は弱いですが光合成のプラントを切り離すほどの犠牲を払わずともやっていけます。
おそらく、中国からこの国にたどりついたイカリソウは、最初は雪の多いところで中国にいたころのやり方で冬も葉を持ったまま暮らしていて、それがさらに分布を広げるうちに冬に葉を落とす別のやり方で生き残っていった、と言うことなのではないかと思います。
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